• 存在感のある4本のコラムは、家づくりの初期段階から、下村さんのなかにマストアイテムとしてあった。中世ヨーロッパの洋館をイメージして、外観にもモールディングを多く取り入れている。

  • 白が基調の広々としたエントランススペースから、2階につながるサーキュラー階段は、下村さんがぜひ実現したかったもの。
    エントランスのドアを開けた瞬間、物語が始まる予感が漂う。

  • 室内のコラム越しに見るリビングスペース。奥のマントルピース、天井のシャンデリアとメダリオンを基点にソファとテーブルを置き、シンメトリーを意識した配置となっている。

  • ダイニングとリビングの照明は、100年以上前のフランスのアンティークそれに合わせてテーブルや椅子も新調した。カーテンや燭台などの小物も、この家に合うように下村さんが探したもの。

  • 縦長の土地のため廊下は必然的に長くなるが、2階の廊下はピラスター(付柱)、壁のパネルなど、「だたの廊下ではつまらない」ため、デコラティブに仕上げてある。

  • 執筆を行う書斎は、最もこだわりの強いスペースの1つ。バロック様式の格天井、ヘリンボーンの床、壁の造作書棚、エイジング塗装など、大工さんと相談しながら徹底的につくり込み、海外の大作映画のセットのような空間に仕立てた。

  • 主寝室で気を使ったのは色使い。壁には赤いダマスクローズの輸入クロスを選び、腰パネル、モールディングなど装飾もたっぷり。リビングセット、ライティングデスクも置かれ、ここで過ごす時間も長いという。

  • エントランスからリビング・ダイニングを抜けると書斎へと誘う廊下にはアール天井と腰パネルなどの装飾を施し宮殿の廊下を彷彿とさせる設えが施されている。

  • 白を基調にまとめたゲストルームは、「部屋ごとにテイストを変えたかった」という下村さんの要望を受け、提案されたもの。ヨーロッパの宮殿に暮らすお姫様の部屋のイメージで、訪れる人は驚くという。

  • 書斎の隠し扉を開け、階段を降りると、廊下の先に地下室がある。ここには「お客さんを驚かせたい」という下村さんの狙いがあり、ラスボスのいるRPGの隠し部屋的な空間に、訪れる人は大興奮、というのも納得できる。

物語が始まる予感がする。作家の妄想をカタチにした洋館

暮らしやすさよりもデザイン、造形を優先したかった

 ミステリー作家、下村敦史さんの家づくりは徹底した下調べと情報収集から始まった。
ヨーロッパを中心に古い洋館のイメージを集め、必要なものだけをすくいあげ、自分の理想の造形、空間を組み上げていく。長編小説の執筆にも似たプロセスを経て、構想を固めていったという。「小説や映画、ゲームに登場するような重厚さと、何かが始まる予感が漂う、ワクワク感に満ちた洋館にしたい」。そんな思いは、サーキュラー階段、壁面のモールディング、吹き抜けのアール壁、パネルやピラスターで装飾した廊下、照明、絵画ディスプレイなどのディテールを通じて、見事に表現されている。「暮らしやすさより、招いた編集者や他の作家が驚くような家を目指しました」。そんな遊び心が端的に感じられるのが、バロック様式の格天井が印象的な書斎の隠し扉から、階段を降り、長い廊下の先に用意した地下室だ。
訪れた人が、細部の装飾に見とれながら導かれ、ここで、物語はクライマックスを迎えるのだろう。下村さんにとって、家づくりは創作活動の1つであり、担当編集者のように伴走してくれた『ユニバーシス』とともに、この作品は完成したのだ。

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