ヨーロッパの石組み文化の美意識が息づく本物素材のイタリアネートスタイル
ヨーロッパを旅すると、街角にある小さなクラシカルホテルに出会う。洗練されたファサードと落ち着いた空間が心地良く、紳士淑女、芸術家や文学者に愛されてきた歴史が息づき、趣きのある風情に思わず足をとめてしまう。
「仕事で海外に訪れることが多く、イタリアで宿泊するホテルはどこも素晴しいデザインばかり。新居にも歴史を感じながらも洗練されたテイストを取り入れたかった」というSさん。そんな思いを実現した邸宅は、イタリアネートスタイル。玄関を中心にしたシンメトリーのデザインは重厚感があり、緩い勾配の寄棟屋根、軒を飾るブラケット装飾、縦長の木製窓でデザインされている。そしてイタリアの路地などでよく見かけるピンコロ石を敷き詰めたアプローチ、玄関ドアへと誘う半磁器タイル、レモンクオーツの外壁など、どれもイタリア産の本物素材を使ったイタリアネートスタイルだ。S邸の存在感を演出しているのは、石組みの文化から生まれた美意識が宿る「陰影」だ。リズミカルに並んでいる縦長の窓の表情を見てほしい。窓の周りを左官仕上げで厚みを出して奥行きが感じられる。中央のバルコニーやアーチの装飾にも厚みがあり、それが陰影をつくり、素材の質感を際立たせている。ヨーロッパの建築は積石造や煉瓦組みがほとんど。陰影にはその石の文化の美意識が宿り、そのディテールの積み重ねによって建物の品格や重厚感が生まれる。この建物を見ていると設計者のヨーロッパ建築に対する知識とこだわり、深い愛情が感じられる。
イタリアをはじめ、ヨーロッパの建築デザインに精通した参會堂に設計を依頼したS夫妻は、外観をクラシックにしたいという奥様、モダンな暮らしがいいというご主人の要望があった。
「イタリアでは景観条例があり、外観に手を加えることが禁止されているので、外部はそのままに内部をリノベーションすることが多いのです。お二人のご要望をそのようなスタイルでまとめていきましょう」という設計者の提案によって、外観は伝統を重んじたイタリアネートスタイル、内部は現代の暮らしにマッチしたモダンなエレガントスタイルとし、ご夫妻それぞれの思いがかなった。
輸入住宅というと「木の家」というイメージがあるが、この建物はRC3階建て。構造面からもデザインの自由度が広がり、イタリア、スペイン、フランスなど本格的なヨーロッパ建築が日本で実現できる。これまでの輸入住宅にはない新しいワールドデザインハウスではないだろうか。